~目次~
1|テンプレート&Tips
2|解説
3|まとめ
手技のTips、今回は研修医の皆さんが血眼になって機会を探している手技No.1の”CV”のTipsを記載して参ります。
上級医や手先の器用な研修医の先輩がサッサッと手早く処置を終わらしている様を見て、あるいは自分で何度かやってみて、

簡単そうな処置だなぁ。 あ、先生!
自分、この間前らくしょーで出来たんで一人でやっときますよ!
なんて思っている方はいませんか?そんな方にはいつもの劇詰めを進呈します。



ふーん。ところでこの方、血小板数や凝固系はどうなってる?
抗血小板薬とか抗凝固薬とかも大丈夫?
prescanしてみてどうだった、どこさす?
やったことある言うてたけどエコーガイド下で針先はちゃんと描出できてたの?まさか歪みだけを見て刺したとかないよね?
合併症ってなにがあったっけ、起こさない為にどう心掛けてる?
というかそもそもこの方のCVほんとに今要るの? それから・・・



………
CVC挿入は当然ですが”侵襲的な”処置です。正しい知識を持って、十全な準備をすることが最低限の条件ですね。
例の如く、あくまでTipsになりますので、手順そのものについては(うっすいので構いませんので)清書をご参照ください。
手技の前にチェックしておくべき項目は、手技時のチェックリスト(必見)を復習してください。
では先ずは簡易版Tipsから。
手技のTips
・プレスキャン
1.頭の回旋具合:静脈と動脈が被らないのを前提として、その上でエコーと針をなるべく無理なく構えられる角度にする。
2.内腔/Compressibilityの確認:虚脱していないか確認、あるいはエコーを少し押し付けてみて、針を穿刺する際にどういう挙動を示すか予想する。
・エコーの準備
プローベカバーは、ゼリーを適量入れ、皴ができないようにしっかりのばして、輪ゴムで固定。
・エコーガイド下穿刺
1.針押し込むとエコーが見えなくなっちゃう!?:針が表皮を貫いてないことが原因! 先に針先を表皮だけ貫通させてから、エコーガイド下穿刺を開始する。
2.エコーで針先が追えないです…:見えないなら絶対にむやみに進めない! 見えるところまで戻って、針を少し進める⇒エコーを少し傾ける or 進める、を繰り返す。
3.一度逆血あったのに進めたら返ってこなくなりました…:そもそも押し込み方が悪く針が跳ねて外れた。もしくは、押し込み過ぎ and/or 血管の走行を把握出来ていない!
4.確実に血管貫通したけどSeldinger法がうまくいかない…:正確にはdouble wall punctureの状態! 外筒にシリンジを緩めにset、左手を身体に添えて外筒をゆっくり抜いてこよう。
・ダイレーション
ダイレーターを少し進める度にワイヤをスコスコしよう! ガイドワイヤが走っている通りに皮下トンネルを作ることがミソ。
重ね重ね、本ページはあくまで手技の”Tips”、”コツ”です。手順自体は清書を参照ください。
それでは解説に移りましょう。
*画像等は随時追加予定。
解説
・プレスキャン
まずはプレスキャンから。
1| 頭の回旋具合
参考書にはエコーを当てる前に、”首を横に傾けて…”と記載があったかと思います。
参考書見なさいと言った傍から恐縮ですが、果たしてこの記載は正しいのでしょうか?
頸部を進展させることのメリットは大きく二つあり、
①エコープローベが床に水平に近づけて当てられるようになり(=手技のやりやすさをあげる)
②静脈と動脈が縦に重ならないようになる(=手技の安全性を高める)
ことです。
ただ、何事にも例外はあり、回旋すると逆に重なったり(A穿刺のリスク)、重ならないには重ならないが尾側の方にしか場所がなかったり(気胸のリスク)することだってあります。中にはほぼ真っ直ぐを向いてないとどうしても重なってしまう、なんてこともあるでしょう。
そのような場合でも、



教科書には曲げるって書いてました!
○○先生も横に向けろって言ってました!
という風に妄信することは危険です。
まずは安全第一です。仮に曲げないことで寧ろ安全に出来ないというのであれば、正直に上級医に話して代わってもらう、もしくは右内頸Vを諦めて他の部位に変更する、なんてことも厭わないようにしましょう。
貴重な機会だからと、自身もないのに/根拠のない自身で手技を強行し、失敗なんてした暁には患者さんに危害を加えたのと同然です。
それに加え、信頼を失い、結果的に手技の機会も失いますし、自分自身も精神的なダメージを受けることは必至です。



“勇気ある撤退”を選択できる能力は、特に研修医専攻医の間では非常に重要な能力になると思います! 研修が終わっても必要ですが
このあたりのことは手技の記事で毎回触れると思いますが、非常に大切なことですので覚えておいてください。
2| 内腔/Compressibilityの確認
こちらはシンプルで、血管腔がぺしゃぺしゃだと手技の難度が格段にあがりますので(特にsingle wall punctureの)、その確認を行いましょう。
また、一見内腔が十分そうに見えても、意外と針で穿刺しようとすると血管がぺしゃんこに潰れてしまい、double wall punctureになりやすい/逆血が返ってくるスペースがsevereな場合もありますので、その確認をしましょう。プローベを軽く押し当ててみて、簡単に虚脱するならそうなる可能性が高いでしょう。
予めリスク評価するという点でも大事ですし、手技を行う前や際中にどのように対応するかを前もって考える必要があるので重要です。
・エコーの準備
清潔野の設定、展開、水通し等ひとしきりの準備が終われば、プローベカバーをプローベに装着する操作がありますね。
みなさんいつもてきとーにゼリーを入れて、てきとーにカバーを掛けてないですか?
口をすっぱくして言いますが、準備こそが手技の安全性、成功率を上げる鍵です。(手技のチェックリスト)
カバーにゼリー入れ過ぎたことでムチッとなってしまい、いざ刺そうとするとするとカバーが穿刺点に被ってしまう。ゼリーが少な過ぎてうまくビームが入らずきれいなviewが出せない。
そんなことにならないよう、”適当”な量を入れるようにしましょう。
また、輪ゴムはしっかり止めましょう。しわっしわの状態で固定しても先ほどと同様に、余ったカバーが穿刺点に被ってしまったり、ゼリーがビーム照射面に来ない為にビームがうまく入らなかったりしてしまいます。必ずシワをのばした状態で固定しましょう。
・エコーガイド下穿刺
さあ準備が終わっていよいよ本番です。たまによくぶつかるトラブル毎に、”何故そうなるのか”、”どうしたらよいのか”を記載していきます。
1| 針押し込むとエコーが見えなくなっちゃう!?



エコーで良い場所を見つけて、さあ穿刺するぞっと…あれ?なんか黒いシャドウ引いて血管見えなくなっちゃったぞ…あれっあれっ??(ブスリッ)



あ、画面見えた!…と思ったらなんか針めっちゃささっとるがな…
これは、針が皮膚に刺入出来ずさらに、刺入させようとしてエイッ!エイッ!と針を押し込んでしまうことにより起こる現象です。
リスクとして、肌がプリップリで厚くて強度が高い方、もしくは逆に瘦せ細ってしまい皮膚がしわしわで且つ裏打ちが少なく血管までの距離が短い方で起こりやすいです。
対策としては、前者であれば刺入点を決めたらプローベを置いて、場合によっては皮膚をつまむなどして、先にエイッと穿刺することだけに集中するのが一つの手です。
後者は少し難しいです。こちらは皮膚をピンとのばしテンションを掛け、場合によっては先にピンク針(18G針)などで大きめに刺入部を作成してみるとよいかもしれません。
とにかく、上のけんしゅうい君のようなことは決しておこさないようにしましょう。
2| エコーで針先が追えないです…



エコーガイド下だと針が白く見える筈…なんだけど、、、
ツンツンした時の歪みは分かるけど針先は見えないな…
プローベ当て直しても…やっぱわかんないな(ぺたぺた)



後ろで怖いおっさん睨んでるし、
まあ歪みでなんとなくの方向分かってるからこのまま刺しちゃえ!
これは正直結構な数の先生方がやっちゃってる印象はあります。
賢い先生方に当たり前のことを言うのは大変恐縮ですが、何の為のエコーガイド下穿刺なのか、今一度考えましょう。
上記のようになってしまう原因は残念ながら技術面に依るところが大きいです。(機械の性能にも依るところもありますが…)
技術的には
①エコーの操作はとにかくゆっくり行う(見失う原因)
②追いかける際に必ずしも傾けるだけでなく平行移動させることも試してみる(筆者はほぼ平行移動だけで行ってます)
③針ツンツンは最小限にする(トンネルがガジガジになる、誤穿刺の原因になる)
④見えないからと言ってペタペタペタペタとプローベを外しては当て直すということをしない(混乱するし焦るだけ)
⑤針先が見えない限りは進めないようにする(誤穿刺の原因にしかならない、最悪の行為)
ことで多少なりとも改善するのではないかと思います。
機械に関しては、可能な限り良いエコーを用いて、depthを下げて画面を拡大し、更に輝度を上げることで針先を見つけやすくしましょう。
3| 一度逆血あったのに進めたら返ってこなくなりました…



おっ、逆血があったぞ。それじゃあ少しだけ進めて…
あれ?逆血なくなっちゃった…
参考書や先輩たちから、針を”倒して進める”と習っている人が多いと思います。
試しに皆さん、近くにあるペンを針だと思って保持してみてください。次にそのペンを倒してみましょう。・・・ほんの少しだけども、ペン先が浮き上がってしまった人はいらっしゃいませんか?
針先の位置を変えずに”倒して⇒進める”というのは意外と難しいものです。”倒しながら進める”が正解な気がします。
かくいう私はこの操作が苦手なので針先に集中して、まっすぐそのままほんの少しだけ進めるようにしているのですが、、、
なんにせよ針先に集中して、折角入った針先が抜けないように注意しましょう(最後は根性論でごめんなさい)
4| 確実に血管貫通したけどSeldinger法がうまくいかない…



内筒(=針)を抜いて、シリンジに付け替えて、陰圧掛けながら引いていくぞ…あ、逆血があったぞ!シリンジ外して…ってあれ、固くて外れないぞ(ごそごそ)。



・・・逆血返ってこなくなっちゃった
まず、”針が血管を貫通して、外筒を外してシリンジに付け替え、逆血が返ってきたところでワイヤを挿入する方法”のことをSeldinger法だと思っている方へ…間違いですので注意してください。(後述の豆知識参照)
手技を難しくする原因は、①血管を貫通させた後陰圧をかけながら引いてくる際に外筒を持つ手が空中に浮いていてそもそも固定できていない、②シリンジの接続が固すぎて外そうともたついている間に抜けてしまう、③抜くのが速過ぎて逆血が返ってこない/返ってきたがすぐ抜けてしまう、等が原因で失敗してしまうことが多いです。
対策としては単純で、外筒を固定する手は必ず患者さんの身体に添えて固定し、シリンジの接続は適度に緩くしておき、ゆっくりと外筒を引いてくるように心掛けてみましょう。
また、ガイドワイヤはすぐに持てる位置に置いておき、さらにワイヤをスムーズに押し込めるように予め準備しておきましょう。
(端折りますが)Seldinger法は”穿刺⇒逆血があるところでワイヤを挿入して留置⇒針(外筒)を抜く⇒ワイヤに沿ってカテーテルを挿入する”一連の手技のことを指します。
すなわちCVC挿入に際して先生方は最初から最後までSeldinger法を試みているのであって、”貫通したからSeldinger法!”ではないのです。
厳密な用語ではないですが、血管の上面と下面を貫いてしまっていることは”double wall puncture”の状態、です。
ちなみに、外筒付きの穿刺針でSeldinger法を行うことをModified Seldinger法と呼んだりもします。
・ダイレーション
寸劇は敢えてskipします。
ここまでのTipsは、回数を重ねる中で自然と身に付く技術と言えます。
が、このダイレーションに関しては、後述の原理/コツを知っていないと何度でも同じ失敗を繰り返す、さらに失敗することで手技の時間を非常に長くする(しかも本人はダイレーションを失敗した自覚がない)という点において、この項では最も重要かもしれません。
先生方は今まで、”穿刺までは上手くいっていた!”、”ガイドワイヤは確実に血管内に入っている!”、”血管の走行が悪いんだ!”などと言って、手技の時間が20分、30分、、、と延びていき、最終的にはカテが迷入したり、ワイヤ抜いてきたら折れ曲がってたりして、新しいキットやワイヤを出して最初から穿刺しなおしになった研修医、上級医を見かけたことはありませんか?
自分がそうならない為に、以下のことをしっかり理解しましょう。
まずダイレーターを用いてダイレーションを行う意味は、dilation(=拡張)という意味の通り、カテーテルを通す為に皮下トンネルを作成することにあります。(血管の穴までは広げなくていいので、深く差し込み過ぎないようにしましょう)
間違ったダイレーションをすると、間違った皮下トンネルを作ることになり、その際にガイドワイヤも折れ曲がってしまいます。(イラスト参照)




さあ、この間違ったガイドワイヤ/皮下トンネルに沿ってカテーテルを入れてみましょう!・・・どうなるかは言わずもがな、ですね。
これを防ぐためには
①そもそも自分が穿刺した角度を覚えておき
②ダイレーターを無理に押し込まずにすむように皮切をしっかりいれておき
③少し進める度にワイヤをスコスコして抵抗がないかを確認すること
が有効です。
まとめ
以上、CVC挿入のTipsについてでした。
研修医のCV失敗あるあるを詰め込んだつもりです。心当たりがある人は特に参考にしてください。
~Take home message~
・prescanの時点から手技は始まっている!
・エコーガイド下穿刺の際に起こり得るトラブルとその対策を予め把握しておこう。
・ダイレーションの意外な落とし穴を知ろう。



It depends on you!
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