~目次~
1|テンプレート&Tips
2|解説
3|まとめ
非侵襲的な検査の代表格ともいえるエコー検査ですが、皆さんはちゃんと活用できていますか?
特に心エコーに関してはその専門性の高さから、研修医の先生方に限らず多くのDrが嫌厭しがちな検査になります。
パッと当てはするものの、その自信のなさからカルテには残さない、といったことも往々にして行われてしまっています。
が、ここでまず訂正したいです。

心エコーは確かに専門性が高く難解な測定項目もあるが、そうでない項目もたくさんあり、概してそれらだけでもERの初療においては十分な情報となり得るのです。
このページでは、初心者向けの①心エコーカルテ記載テンプレート、②学習/習得すべき順番を含む手技のTipsを示し、③カルテ記載にある項目の測定の仕方と簡単な解釈について解説していきます。
※ 画像などは適宜追加する予定ですが、当面は文字だけになります。各自エコーの本を参照しながらご覧ください。
心エコーカルテ記載のテンプレート
【心エコー】
vEF 〇%, 心嚢液貯留–, 壁運動異常–。
A弁:ARの程度、AVv m/sec。
M弁:MRの程度。
T弁:TRv m/sec。
IVC:〇/△ mm RC–。
初心者向けは以上です。
・・・え、少ないって?



いいえ、ERでパッとあてる分にはこれだけでもそれなりの情報量です。
もちろんまだまだ他にも取れるとうれしい情報はいくらでもありますが、最初はこれだけで十分です。
初めから難しい項目まで分かろうとして、匙を投げないよう、まずはこれらからできるようにしましょう。
続いて手技のTipsです。
手技のTips
・学習/習得すべき手順:順番に
1. 4つのviewを出せるようにする:傍胸骨長軸像→傍胸骨短軸像→心尖部四腔像→下大静脈像
2. 非測定項目をなんとなく判別出来るようにする:vEF、心嚢液貯留、壁運動異常
3. 長さを測定出来るようにする:IVC径
4. カラードプラを出せるようにする:M弁、A弁、T弁
5. CWを使えるようにする:AVv、TVv
・見たいviewが見える場所こそが正解
教科書通りの場所で描出できるとは限らない。見えない場合は、
- ぼんやりでも良いから見えるところを探すべく、サーっと大きめにプローベを走査して
- ぼんやり見えるところが見つかれば、そこから微調整を加えていく
- 微調整しても駄目なら再度大きめに走査して別の見える場所を探す
ようにしましょう。
・プローベは短く持って、手を患者さんの体に触れて固定しよう
初めはプローベの固定が甘くて画面を見てると動いてしまうことも多いでしょう。
上の方法で微調整する段階になったら、小指側を患者さんの体に添え、あとはプローベを持ってる指だけで走査しましょう。
・プローベは強く押し当てすぎない
非侵襲が売りの検査なので、あまり押し当てないようにしましょう。
自分に当ててみればわかりますが、(少なくとも)瘦せ型の人間からすると結構ゴリゴリされると痛いです。
後述のように反復練習するには、患者さんの協力が不可欠ですので、まず痛くない検査を心掛けねばなりません。
・とにかく当てよう
当てたら当てた分だけ上手になるのがエコー検査です。
当てる⇒上達⇒新しい測定項目を勉強⇒当てる⇒上達⇒~~
を繰り返すだけで、研修を終えるころにはそれなりには心エコーを使えるようになるのではないかと思います。
上記のようなところですが、あくまでエコー検査を行う上で気を付けるべきちょっとした事項に過ぎません。
薄い本で構わないので、一冊は心エコーについての本を買っておくと良いでしょう。
それでは解説に移ります。
解説
心エコー検査のカルテテンプレート
【心エコー】
vEF 〇%、心嚢液貯留–、壁運動異常–
A弁:ARの程度、AVv m/sec
M弁:MRの程度
T弁:TRv m/sec、TRPG mmHg
IVC:〇/△ mm RC–
上記の通りです。後述の”学習/習得すべき手順”に従って進めていけば、埋められるようになります。
“初心者向け”と銘打ちはしましたが、正直ERではこれで十分です。十分を、通りこしてもはや不要なくらい。
覚える為には、“何故この項目を測定するのか?” が分からなければ始まらないと思います。
それでは一つ一つ紐解いていきましょう。
vEF 〇%, 心嚢液貯留–, 壁運動異常–。
まずvEFについて。vEFはvisual Ejection Fraction=”見た目上のEF”のことで、ちゃんとした英語ではVisually estimated ejection fractionと表現されます。要は”EFのぼんやりとした数値”のことです。
EFをしっかり測定する方法としてはTeichholz法やSimpson法などがありますが、ERで測定するには少しばかり時間がかかるばかりでなく、そもそも非専門家が行っても正確性に欠けることから、そこまで頑張って取りにいく意味がないんですね。
ERで必要なのは、患者さんの心機能を
良好な心機能やん(55%以上)>>>悪くないやん(50%程度)>>>悪いけど、まぁ…(50%以下)>>>あぁ…(40%以下)>>>アカン…(30%以下)
という5段階にある程度あたりをつけることです。(もちろんEFだけでは評価できませんが)
ですので、研修医の先生方にやっていただきたいのは、正しい描出をして、自分でEFを推定して、上級医の推定やちゃんとしたEFの値と照らし合わせて、ひたすらEFを推定できるように訓練することです。
次に、心嚢液貯留について。目的は言わずもがな、心タンポナーデの除外の為ですね。
参考までに評価の仕方としては、拡張期のエコーフリースペースの幅が①10mm未満で少量、②10-20mmで中等量、③20mm以上で多量、④20mm以上かつ心臓の圧排ありで大量、といったような感じです。
あくまで参考です。
最後に壁運動異常。言わずもがな、一番は心筋梗塞の除外ですね。
これに関しては正直なところ明らかな局所壁運動の低下がなければ、研修医の先生方には難しいです。
それどころか、微妙なものに関しては筆者も未だにできません。
こちらもvEFと同様に、自分で推定して、循環器内科の先生方のエコーを見学させてもらって”正解”を教えてもらうようにしましょう。
微妙でわからない時は、”明らかな局所壁運動異常は認めない”としながらも、Assessmentの方にしっかりと”評価困難であった”旨記載しておきましょう。
弁:ARの程度、AVv m/sec
A弁の評価としてはARがないか、ASがないかを確認するだけでとりあえず良いです。
ARがあれば左室に容量負荷が、ASがあれば圧負荷が掛かることになりますね。
また、ASに関しては失神の際の鑑別として重要です。
参考までに、評価法としては、
- ARは、本当は全然ちがうのですが、ざっくり弁から心尖部までを3等分して、逆流ジェットがどこまで到達しているかでぼんやりと重症度を推し量りましょう。(正しい評価は難しいので割愛、興味があれば循環器超音波検査の適応と判読ガイドラインを参照ください)
- ASは、血流速度が2m/sec以上をなら大動脈弁の硬化、2.5以上で軽症AS、3以上で中等度
といった感じです。
M弁:MRの程度
M弁の評価はMRがないか、だけで十分です。
MRがあったときに考えることは、M弁の逸脱がないか、疣贅がないか、機能性なのか、心不全の原因になってないか、などなどですね。
参考までに評価としては、逆流ジェットの幅が細く短ければ軽症、ジェット面積が左房面積の50%以上なら重症、その間が中等症、といった具合です。
T弁:TRv m/sec、TRPG mmHg
T弁の評価はT弁逆流速度とTRPG=T弁逆流圧較差を測定するだけで十分です。
ちなみにT弁逆流速度が求められればTRPGは自然に求まります。
(簡易ベルヌーイの式 圧較差=4v²、知ってたら便利くらいです)
T弁の逆流が強い/圧較差が大きいということは、収縮期の右室の圧が高い、すなわち右室より先が渋滞しちゃってる、ということになりますね。
その原因はさまざまで、左室拡張能が悪く右から左にいけないこともあれば、左室収縮力が悪くて血液を全身に送れないこともあれば、肺炎で肺がガチガチに硬くて送れないなんてこともあります。
参考までに評価としては、TRvが3m/sec以上を有意としてとることが多いです。
IVC:〇/△ mm RC–
みんな大好きIVCです。言わずもがな循環血液量を推し量る項目になります。



IVCなら測れます!!



…どこで測ってる?



はわわわ…
ということもあると思います。正しくはIVCと肝静脈の合流部から1-2cm程度尾側で測定します。
また呼吸性変動の測定も大切です。吸気呼気特に意識せずに、一番幅が広いタイミング、一番狭いタイミングでフリーズかけて測定するのでかまいません。
呼吸性変動は50%以上変動あればあり、と取ります。(測り方やRCをどうとるかは諸説あります)
参考までに、少し細かいですが、2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドラインより(少し改変)、
推定CVPは以下の通りです。
- 3 mmHg:呼気末期IVC≦21mm and (sniffによる虚脱率50%以上 or 安静呼吸で虚脱率20%以上)
- 15 mmHg:呼気末期IVC>21mm and (sniffによる虚脱率50%以下 or 安静呼吸で虚脱率20%以下)
- 8 mmHg:1, 2のどちらでもない
さあ、各項目がざっくりとわかりましたか?続いて手技のTipsの解説です。
手技のTips
学習/習得すべき手順
上述の通りです。各種出し方に関しては薄い本で良いので、参考書を見て頑張る、そして上級医に教わりましょう。
ここでは描出の詳しい方法ではなく、描出の為に必要な手段であるcaliber、CDI=color doppler imaging、CW=continuas wave(doppler)について簡単な解説を行います。
caliper
caliperは”測定器”のことで、多くのエコーでは単純な長さ計測(か、それ以上の機能)として利用されています。使い方は単純明快、カーソルを計測したい部位の一端に持って行ってSetやEnterボタンを押したあと、もう一端に持って行き再度Setボタンを押すだけです。
CDI=color doppler imaging
CDIは読んで字のごとく、流速をカラーイメージ化するツールです。ご存じと思いますがプローベに向かう側が赤色、遠ざかる方が青色ですね。
しかし、知っていても実際に臨床に応用できなければ意味はありません。例えば、(主に傍胸骨長軸像で)弁が画面横向きになっているような場合は逆流を過小評価してしまうこともありますので、注意が必要です。
CDIの使い方も簡単で、ボタンを押してカーソルを動かしてみたいところに持ってくるだけです。
rangeを広げたい場合は、多くの機械でSetやEnterボタンを押すと、rangeを広げたり縮小したりすることができます。上手く収まり切らない、逆に要らないイメージが乗る場合は活用してみましょう。
CW=continuas wave(doppler)
CW(またはPW; Pulse Wave)は、研修医の先生方が最も忌避しつつも使いこなしてみたいと思う機能ではないでしょうか?
原理さえ理解してしまえば、あとは楽勝です。ざっくり言うと、



CWはビーム上の血流のすべての速度情報を測定し、
PWは指定した範囲内の速度情報を測定します。
さらにざっくり具体的に言うと、CWは最高血流速度を求めるのに適しており、PWは特定部位の詳細な情報を抜き出すのに適している、と言えます。
CWについて少しだけ踏み込みましょう。
最高血流速度はどういう時に必要なのか?上述のAS, TRですね(あとHOCM)。
では流体において最高血流速度はどこで観測されると思いますか?そうです、1番狭い所、即ち弁口ですね。
ですので、理論上はPWでも弁通過速度はもちろん測れなくはないのですが(ほんとは出来ない時もあるのですが)、CWなら弁の部分にビームを当てるだけで簡便に測ることが可能なのです。
PWについては今回の初級者編では不要なので述べませんので、また別項でCW, PW共に更に詳しく説明しようと思います。
CWの使い方も至って単純。目標の弁の開閉がしっかり見えるところ且つCDIで1番吹いているように見えるビューを出します。
そこでCWボタンを押してビームを当該箇所に合わせ、Enterボタンや、波形表示と書かれたボタンを押しますと、波形が現れます。横軸が時間、縦軸が速度になっております。速度波形が見切れている場合は、baselineと書かれたつまみを回して、波形がちゃんと全部入るようにしましょう。
残ったTipsは上述通りになりますので、さらっと読んでおいてください。特に重要なのは“とにかくあてること”、これにつきます。
まとめ
以上、初級編の心エコーのTipsでした。
一部端折っている、図解がない等、このページだけを見てエコーが当てられるようになるかというと、決してそんなことはありません。
ただ、心エコーを当てることができるようになるための手ほどきにはなってくれると思います。
~Take home message~
・”学習/習得すべき手順”をもとに、ひとつずつ、焦らず習熟していきましょう。
・測定する為のボタンはそう多くはないので、ポイントを押さえてまずはエコーに慣れましょう。
・上達の為には、”とにかくあてること”



Let’s handle echocardiogram! It must be cool!
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