~目次~
1|救急患者対応の時にすることChecklist
2|解説
3|まとめ
“カルテのテンプレート”を利用するにあたり、まずは救急外来での基本的な立ち回りについて理解を深めていた方が良いでしょう。
以下に、救急患者対応に共通するざっくりとしたチェックリストを作成しました。
救急患者対応の時にすることChecklist
・事前準備
救急隊からの情報を基に、考えられる病態/疾患を想起し、(バイタル崩れているなら特に)必要な物品を準備、多忙/切迫しているなら事前オーダーを行おう。
・1st impression
パッと見sick?会話可能?橈骨動脈触知?活動性出血ない?GCS/JCSは?
・Primary Survey
life-threateningなABCDの問題はない?⇒ある/怪しいなら即座に上級医に報告
・SEPMAL*聴取
救急隊、本人、家族から
主訴/症状(Syuso-Sign)、病歴(Event)、既往歴(Past medical history)、内服薬(Medication)、ADL/アレルギー(Allergy)、最終食事(Last meal)
・詳細な身体診察
全身抜けなく。ただし優先順位は考えよう。
・検査オーダー
得られた病歴/所見から、考えられる疾患、必ず除外すべき疾患を考える。
症例のプレゼンを行い、根拠を示しながら、〇〇検査をしたい旨を伝えよう。
・Assessment/Plan
今までの情報を基に、上級医と相談しながら診断/治療へと進もう。
・カルテ記載
勿論空き時間で記載しながら。
仕事的には病歴や所見が非常に重要ですが、皆さんの勉強的にはAssessmentの項目をしっかり書き上げようにしましょう。
・最終確認<かきくけこ>
か 外来予約や紹介はした? カルテの記載漏れないか?
き 帰宅指示を伝えたか?
く 薬は処方したか?
け 検査のチェック漏れないか?
こ コストは取ったか?
*SAMPLEのこと。覚えやすく、聴取の順番に並び替えたもので、完全オリジナルです。当HPではこのまま使います。
ところで救急外来といえば、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?
華やか?
かっこいい?
スマート?
勿論これらのイメージも尤もですが、現実には泥臭い仕事であることが大半です。
尿便失禁してしまった認知症のおじいさんおばあさん、何故コレで救急車を呼んだか分からないような方、粗暴な輩、etc・・・
多種多様なキャラクター、患者背景、疾患/病態に対して、ひたすら実直に仕事をこなしていくことが求められます。
そんな方々を相手に、思いつくがままに聴取/診察して、なんとなく検査をいれて、あいまいな知識で診断治療して、てきとーに記録して、といった具合で臨むとどうなるか?
・・・賢い皆さんならこれ以上は必要ないでしょう。
この”カルテのテンプレ”では、診療を円滑に、抜けなく行う為のテンプレートを用意しました。
もちろん肝心な中身は皆さんの知識やセンスに依存しますが、それでも、テンプレを用いることで、

心窩部の痛み訴えているので採血とお腹のCT検査したいです!



なるほど。それは圧痛なの?喫煙などの冠危険因子は?
心電図は要らないの?心窩部だけなの?右季肋部痛はないの?
Murphy徴候は?黄疸は?そもそも今までに同様の痛みはなかったの?
この人ADLは?おうちに帰れそう?~~~



も、もう一回しっかり病歴聞いたり所見取ってきたりしてきます…!!
・・・といった、劇詰めをされずに堂々とプレゼン出来る確率が上がることが期待されます。
結局のところ型どおりに、細やかに診察を進める方が早く、安全に、そして勉強にもなります。
チェックリスト形式でありテンプレとは異なりますが、以下に簡単に解説します。
解説
・事前準備
救急外来に限らず何事も準備は大切です。
<疾患想起>
情報すなわち、年齢、性別、主訴、病歴等を基に少なくとも”考えられる限り最もありうる疾患”と”最も恐ろしい疾患”だけは少なくとも想起するようにしましょう。
<briefing>
対応に当たるスタッフに自分の考えを共有し、どのような診療経過を辿りそうか、優先順位はなにかなど到着前にbliefingをしておきましょう。



まだまだそんなレベルじゃないよ、、、
という方、安心してください、当然です。まずは上級医の考えを聞いて、積極的に質問して学んでいきましょう。
<物品準備>
ルート、挿管などの準備。
造影が必要そうならば初めから耐圧で作成する、挿管困難そうならマックグラス用意するなど工夫しましょう。
・1st impression
救急車の中もしくは降りる所から早速診察は始まります。
以下を同時に行います。
・パッと見sickな感じか判断
・呼び掛けて返事があるか、開眼するかチェック(A, D)
・息遣いをチェック(B)
・患者さんの橈骨動脈を触れながら、冷感/冷汗ないか、熱感をチェック(C, E)
・名前、見当識をチェック(D)
多いように思えるかもしれませんが、実際にやっていることを纏めると”触れて、名前を聞いて、場所日時を聞くだけ”です。
のんびり偉そうに救急隊の方が運び込むのを待つ時間があるなら、積極的に迎え撃ちに行きましょう!
また、sick感が強い、ABCDで明らかに崩れているならその時点で警戒度を上げてスタッフに共有しましょう。
・Primary Survey
1st impressionは簡単な身体所見による判断でしたが、ベッド移乗が終わりましたら本格的にprimary surveyを行っていきます。
モニタ装着や聴診器/エコーなどを用いて、詳細にバイタルの異状やその病因を即座に見つけ、是正していきます。
ABC(D)の安定なくしては、前に進んではなりません。
上級医と共に適切な評価の上、迅速に蘇生しましょう。
・SEPMAL聴取
皆さんは勿論SAMPLEはご存じですよね。最低限聴取すべき内容をまとめたものです。
SAMPLEって確かに覚えやすいのですが、聴取する分には順番がぐちゃぐちゃで使いにくいなと思ったことはありませんか?
そこで当サイトでは、実際に聴取する順番に並び替え、若干オリジナル要素を加えた”SEPMAL”を用います。
S | Syuso/Sign(主訴や症状): |
E | Event(病歴): |
P | Past medical history(既往歴): 鑑別疾患を上げることにも、リスクなどを推し量って方針を決める際にも重要な情報となります。 |
M | Medication(常用薬): 病態に関わることもあれば、”血液サラサラ系”は手技の際に注意すべきです。 入院した後は継続処方を出す必要もあります。 用量から服用タイミングまで、しっかりと記載しましょう。 |
A | Allergy/ADL(アレルギー/ADL): 治療に際して使用できない薬はないか?要介護度/歩行/食事内容や自力摂取出来ていたか? などのADLは、治療方針や退院/転院に際しての判断材料となります。 |
L | Last meal(最終食事): 緊急での気管挿管、内視鏡、手術が行われる際に有用な情報となります。 |
いかがでしょうか?特にオリジナル要素のADLは確実に聞いて欲しいです。



患者さんを元の生活か、それ以上の状態に戻すことこそが我々医師が取り組むべき課題であります。
・・・そもそも元の生活が分からないのに成し遂げることなんて不可能ですよね?
歩けていたのか?車いす移動?ご飯は食べられていたのか?食べていたならどんなご飯を?
むせ込んでなかった?おうちには独り?家族いるなら協力してくれそう?
などなど、患者さんを入院させたその瞬間から退院させる道筋を立てられるよう、情報収集に尽力すべきです。
人によっては、患者さん/患者さん家族を前にすると聴取するべき内容がトンでしまうこともあるかと思います。
是非こちらを用いて、抜けのない聴取を行ってください。
・詳細な身体診察
こちらは解説するまでもないでしょう。
優先順位は考えつつも、抜けなく詳細に診察していきましょう。
細かな診察方法/診察所見に関しては、先生方の知識量や日々の努力がモノを言います。
しっかり学習していきましょう。
・検査オーダー
原則として、病歴や身体診察を基に鑑別を挙げた上で検査項目をオーダーすることが望まれます。
無駄な検査項目は医療費の無駄遣いですし、場合によっては被曝など患者さんが害を被ることにもつながります。
血液検査項目一つから画像検査まで、”何故この検査をするのか”を明確に述べられるようにしましょう。
Stop! “なんとなく”
前述の理由は勿論、”なんとなく”を脱却することは皆さんの成長を著しく促進すると思います。頑張りましょう。
症例のプレゼンと共に根拠を示しながら、自分の選んだ検査をしたい旨を伝えましょう。
言わずもがな、数多くのツッコミが待ち構えていることでしょう。



あれは聞いたか、この身体所見は取ったか、この疾患は考えないのか?、この検査は必要でないのか?不要でないのか?、etc…
その都度、腐らず頑張りましょう。
上級医からの指摘はそのまま皆さんの足りないところ(であることが多い)です。
殊勝に受け止めて、適宜改善していきましょう。
・Assessment/Plan
これまでの情報を基に、上級医と相談しながら診断/治療へと進みましょう。
上級医の先生方は、皆さんの知らない知識をたくさん持っています。
たくさん質問して、自分の学習に繋げましょう。
この過程で、異常所見には必ず理由をつけるように試みてください。
多くの人間は都合の悪いことから目を逸らします。
胃腸炎と診断したが腹痛の訴え方が強い。。。
感冒と診断したがCRPが不自然に高い。。。
骨折なしと診断したが僅かに胸水が溜まっているように見える。。。
などといった所見を決して無視しないようにしましょう。
・カルテ記載
ここに至るまでにも、看護師さんと飲み会のお話をする暇があったらカルテを書きましょう。
必ず自分の取った病歴や所見は記載し、また学習の為にAssessmentをしっかりと書き上げましょう。
特にAssessmentに関しては、デタラメや抜けだらけのことも多いと思います。
絶対に上級医にチェックしてもらい、安全な医療の為にも学習の為にもfeedbackを受けましょう。



カルテ記載?てきとーで良いでしょ!
と思っているあなた、その考えは捨てましょう。
患者さんの為、他人(医師)の為、自分の為にもしっかりカルテは書き上げましょう。
一例ですが・・・
カルテを書き上げる中で見落としや、アセスメントの妥当性を再確認することが出来れば患者さんの為になり、患者背景を含めた病歴、所見、アセスメント、プラン、がきっちり書かれたカルテがあれば入院後受け持つ医師は非常に助かりますし、診療の過程と結果、そしてその根拠がカルテに記載されることで自分の身を守ることにも繋がります。
必ず仕上げることを心がけましょう。
・・・とは言っても初めは難しいので、当サイトのテンプレートを用いながらぼちぼち頑張っていきましょう。
・最終確認:かきくけこ
患者さんを帰す/病棟に送る前に、チェックすべき項目として”かきくけこ”を挙げました。
これは師匠の更に師匠?が使っていたゴロだそうです。
か | 外来予約/紹介。カルテ記載: 必要ならば、原疾患や想定外の異常所見に対して、自院や他院でのfollow upを確実に行いましょう。カルテの記載の重要性は前述の通りです。 |
き | 帰宅指示: “絶対なんて、絶対ない”です。診断が異なっていた、今は大丈夫でも悪化する、画像に予期せぬものが映っていたなど、ERで完結しきることは不可能です。 起こりうることや、再診の目安などを説明した上でお帰りいただきましょう。 |
く | 薬: 適切な診療をしたのに、最後の最後で薬を出し忘れて患者さんが家に帰ってから悲しむ、なんてことはないようにしましょう。 |
け | 検査のチェック: 前述の通り、異常所見がないか片端からチェックしましょう。 検査は出したがチェックし忘れた、なんてことは冗談みたいですがありがちです。 気を付けましょう。 |
こ | コスト: どんなに崇高な志があろうとも、”お金の為に”という側面はあります。 正当な理由があって行った検査や処置には、正当な対価を求めるべきです。 必ずコストを取って病院にも貢献しましょう。 それが組織に属するということです。 |
まとめ
以上いかがでしたでしょうか?
~Take home message~
・救急外来の初期対応の流れを覚えよう!
・”なんとなく”から脱却しよう!
根拠を持ってオーダー、Assessmentを。
・カルテはきっちり仕上げよう!



Have a nice ER work!
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